シャンボール城と、入ってきたばかりのルネサンス(3/3)




さて、シャンボール城の全体的印象から、更に考察を進めましょう。


まず最初に、このお城は本物の防御陣として作られたとは考えられません。 もしそうならもっと実用的な作りで防御が厳しいでしょう。 例えば近くにあるシノン城を見ればわかります。 このお城は実戦用です(下の写真)。 シャンボール城は本物の戦争用じゃなくて、 城主のいわばステイタス・シンボルとしてのお城です。 狩りが出来る、森の中の一種の宮殿です。


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シノン城



ステイタスのシンボルだから、当時の最も粋なスタイルと思われた ルネサンス様式を取り入れたのでしょう。 しかもこのお城の城主は、当時王位についたばかりの フランソワ一世(在位1515-47)です(シャンボール城の着工は1519年)。 何か一説には、フランソワ一世がこのお城の着工を思い立った裏には、 片思いの女性が居たとか聞いたことがあります。まァとにかく、 自らのステイタスにふさわしい、カッコイイお城 を作りたかったという点は間違いないでしょう。


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フランソワ1世の紋章(シャンボール城)



しかしそれにしても、こんなに小塔が立つのは不思議です(何度も言いますが)。 以下に別のお城をお見せしますが、他にこんな小塔を建てたお城はありません。 誰がこんな案を出したのでしょうか。 シャンボール城の紹介を見ると必ず書いてあるんですが、 この城の設計者は未だ分からないという事です。 つまり、こんな意匠を誰がいつどうやって決めたのか、本当のところは分からないのです・・。


しかし、個人名は分からなくても、このような小塔群を作る発想がどこから来たか、 その発想の源泉を類推する事なら出来ます。当時のフランスでは何世紀も亘ってゴシック教会 建築が隆盛を保っていました。お城の小塔群、何かに似ていると思いませんか?。 そう、ゴシック建築にツンツンと立っている小尖塔です。 意図的にゴシックを真似したかどうかはともかく、時代の生む発想として、 このお城の小塔群は明らかにゴシック建築と関連があるように思われるのです。


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(ゴシックが念頭にあって)「塔が密集して立っていると立派で(威厳があって)いいなぁ」 という思いがあって、 他方で「そうだ!塔はみんなハイカラなイタリア式にしてしまおう!」、という発想があったのだと思います (注1)。 これを考えた人はよほど、それまでにない、 どこにもないお城 を造るつもりだったんでしょうね。


注1: ここでは触れませんでしたがフランソワ1世はレオナルド・ダ・ビンチを招聘しています。 もしもシャンボール城の原案がダ・ビンチによるものだとしたら、上に述べたゴシックとの関連はかなり 怪しいものになります。ダ・ビンチはゴシック建築の影響の殆どないイタリアで育った人だからです。 でもあの小塔群・・・。だとしたら一体何が発想の源泉なのでしょう?。



















さて、最後になりますが、全体の雰囲気について考えるために、他との比較をしておきます。 当時は、ルネサンスを参照しながらカッコいいお城を建てようという動きが他にもありました。 その例としてシュノンソー城(1515-81)、 アゼル・リドー城(1528-25)の写真を以下に載せます。どうです?、 皆何となく雰囲気が似てますでしょう?。


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アゼル・リドー城



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シュノンソー城



これらのお城は戦争用ではなくて、「城」というビルディングタイプを援用した新しい宮殿・館です。 デザインが考えられていて、見た目がすっきりしていますね。 これらのお城のどこがルネサンス様式かというと、シンメトリックである事と、あとは殆ど細部の意匠だけです。 でも、イタリアのルネサンス建築に刺激されてカッコイイお城を造りたくなった 当時の人々の思いが、こんなすっきりして整ったお城を生んだのではないでしょうか。


シャンボール城はこれらと規模が違いますから、それは差し引いて見て頂きたいのですが、 それでも似ている部分、シャンボール城だけの特徴的な部分が浮かび上がってきませんか。



















何のかんの言っても、ロワール川沿いのこれらのお城は見た目もきれいです。 当時の作った人達も、大きな誇りをもってこれらのお城を見た事でしょう。 その背後には、イタリアからルネサンスが流れ込んできたばかりという、当時の状況があったのでした。 これらのお城は新しい時代を感じさせたことでしょう。


最後に、シャンボール城と言いますと、浮き名を流した王様の話とか、代々の王様の逸話が色々あって 面白いらしいのですが、そっちの方は私は詳しくないので、どこか別のところで見て下さい。 では、この辺で終わりにします。


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